天井桟敷

食。映画。音楽。本。旅。そしてベタ。

ある子供

ダルデンヌ兄弟による昨年のカンヌパルムドール受賞作。
無駄なものは全部削ぎ落とし、余計な装飾も一切なし。ストーリーと演技のみのガチンコ勝負。感情の表現もシンプルなのでストレートに浸みこんでくる。
考えることやること全てが幼稚な20歳の若者がなんとなく父親になってしまう。彼は少年達を使った窃盗犯の元締めで、気ままなその日暮らし。盗品を売り、衝動買いをし、平気で物乞いもする。もちろん親としての自覚などゼロで、ついには大金ほしさに我が子を売り払ってしまう。母親である18歳の少女は幼ないながら母性にあふれており、かわいい我が子を失ったショックに倒れ、怒りのあまり警察に通報する。あわてた青年は必死で子供を取り返すのだが…。
若者の失業率20%のベルギー。家庭らしい家庭で育つことなく、学もなく、川沿いの小屋でダンボールにくるまって眠る日々。多くを与えられ甘やかされて大人になりきれない日本人の若者とは大いに違う深刻さが滲んでいる。ただ、無知とはいえ人間本来のやさしさや思いやりは失っておらず、残虐性や凶暴性などとは無縁であるところが救い。
それ故。子供のように泣きじゃくりながら、悔いて許しを請うラストには希望が見え、そのあとには静かな感動が訪れる。